Tess
1979年 仏
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ナスターシャ・キンスキー
ピーター・ファース
リー・ローソン
原作はトマス・ハーディ『ダーバヴィル家のテス』、映画はいわゆる「女の一生」モノです。貧乏な身分に生まれたけれど、人並み外れた美貌に恵まれた女性がどういう人生を歩むかという筋書きで、正直、あまり好きなジャンルではない。この手の話は映画の題材になりやすいのか、洋の東西を問わず多い。むしろ「女の不幸」モノというべきか。美貌ゆえに波乱の人生を歩み、美貌ゆえに落ちぶれていく――基本的に大河ドラマ的なノリだと思うので、思うほど深みが感じられない。これは監督の力量の問題なのかな。
19世紀のイングランドの田舎が舞台で、まだまだキリスト教の伝統や村の慣習も色濃く残っている、そんなところで主人公のテスは強姦されて不義の子を生まされる。暗い過去をもつテスは、やげて別の男性と恋に落ち結婚したけれども、夫に正直に過去を告白したばかりに夫はブラジルに逃げていってしまう。テスは夫が許すというまで待つつもりでいたけれども、父親を亡くした実家の没落は悲惨で、仕方なく、自分をかつて強姦した金持ちの男の情婦になる――。
誰もが幸福と不幸のあいだを揺らいでいて、運命に翻弄される部分と自分の意志で運命を切り開こうとする部分とが交錯していて、その意味ではおもしろい。けれども、主要登場人物たちが「そんなに善くもなければそんなに悪くもない」人たちばっかりで、彼らの行動の描き方を見ているとついつい「甘いっ!」とツッコミたくなること多し。それならそれでいいから、もう少し人間の「どうしようもなさ」をも丁寧に描いてくれていたらなあと思った。ポランスキーのこの映画も、深くなりそうでならない。どうにもこうにも物足りない。
まあ誰もが思うことだろうけれど、ナスターシャでのみ持っているような映画だ。彼女はとにかく美しい。テスの不幸が陳腐にならなかったのは、ナスターシャの寡黙で意志の強そうな目と表情が、何よりも抑制された美を感じさせてくれたからだろう。