まあだだよ

1993 年 日
監督: 黒澤明
出演: 松村達雄
香川京子
井川比佐志


 わたしは内田百間のファンだ。幽玄的なのか幻想的なのか、なんとも説明しがたい曰くありげな小説が好き。とんでもないくらいの融通のきかなさと、はたからみるとカワイイと思わずいってしまいたくなるよな頑固さがおかしいエッセイが好き。ともあれ、長年のファンであったために、わたしなりの「内田百間像」みたいなものがあったわけですよ。
 黒澤監督の「まあだだよ」はこの内田百間を主人公にしたもの。黒澤+百間ということで絶対観なきゃと思って観にいった。わたしのイメージしていた百間と黒澤の百間は、共通点は皆無だった。だからといって別にがっかりというわけでもなくて、ふーん、黒澤監督にとって百間はこんなふうに解釈されたんだなと思っていた。先生と弟子の関係が中心だったから、そういうふうに百間を捉えたことはなかったから、新鮮ではあった。
 よく考えれば、実際の百間がどんな人だったかなんて、あたしは知らないんだよね。小説とエッセイからイメージしているばかりで。でもそれでいいんだ。
 映画のなかでは、香川京子の演じる奥さんと百間先生が住む小さな家を移しながら、四季がゆっくりと流れていくシーンが心に残っている。冬がとくにきれいだった。
by kiryn (2001/10/14)

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メリーに首ったけ

There’s Something About Mary
1998 年 米
監督: ピータ・ファレリー
出演: キャメロン・ディアス
マット・ディロン
ベン・スティラー


 これぞラブコメ!てなかんじの調子いい映画。メリーの健康的な美しさに比べて、彼女にホレる連中は変態入りまくり。なんでこーもカルーく逝ってらっしゃる方々にホレられてしまうのか、メリーがかわいそうになるくらいだけど、過酷なストーカー受難人生を送ってきたわりには、彼女の朗らかさ・やさしさはぜんぜん廃れない。その強さがカッコいい。でもそれがまたヘナチョコで電波系なオトコを引き寄せてしまう?
 とにかく笑いました。アホばっかりです。  
by kiryn (2001/12/4)

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ベルリン・天使の詩

Der Himmel ueber Berlin
1987 年 仏、西独
監督: ヴィム・ヴェンダース
出演: ブルーノ・ガンツ
ソルベイグド・マルタン
オットー・サンダー


 天使の視線から見たベルリン。天使は人々の心の声を聞くことができる。声はどの声もどこか寂しげだった。図書館に天使がたたずむなかを、人々の声が何重にもかさなって響き合っているシーンが好きだった。老いた詩人がポツダム広場を、ここにはカフェがあった、ここでみんな語り合った、と何もなくなった空き地を杖をつきながら歩き回る。天使はあとをついていく。すごく悲しいシーンだった。
 天使が恋をして人間になったとたん、画面がカラーになり、それまで聞こえていた声がパタッとやむ。それからブランコのりの彼女を探しに行く。後半はそういうふうに希望が散りばめられていた。まだベルリンが冷戦の象徴で、壁が崩壊していない頃の映画だったから。 
 今ではポツダム広場は再開発のどまんなか。詩人の郷愁などふっとんでしまっている。それも時代の流れか。なんだか不思議な感じがする。
by kiryn (2001/10/19)

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ブラザー・サン シスター・ムーン

Brother Sun Sister Moon
1972 年 伊
監督: フランコ・ゼフィレッリ
出演: グラハム・フォークナー
ジュディ・バウカー
アレック・ギネス


 13世紀のイタリアで豊かな呉服商人の息子として育ったフランチェスコが、戦争体験や重い病気を経て、キリストの教えに忠実に生きようと決心し、両親を捨て、ぼろをまとい、はだしで壊れた教会を再建しようとする。この映画は、小鳥にまで説教をしたという聖フランチェスコの前半の生涯を描いている。
 キリストの指し示した道を歩もうとすることは、この世の富を捨て両親を捨て、心の天国をのみ糧にして生きることである。そのような道をすすもうとすると、当然、この世のさまざまなことがらと衝突せざるをえない。今でいえば、カルト宗教と実社会との軋轢と似たようなことが起こるわけである。
 高度に宗教的な問題性をもつこういうテーマは、扱うのがとても難しいのではないか。まじめに聖フランチェスコをとりあげれば、貧しさを徹底する人であったわけだから、映画的には地味なものになりかねない。しかし映画の興行性を無視せずに作ろうと思えば、見せ場も用意しなくてはならないし、物語も分かりやすくしなくてはならない。必然的に、陳腐な作品にもなりかねないわけである。
 このゼフィレッリの作品をみたかぎりでは、そういう陳腐さがどうしても目につくことは否定できない。富を否定せよ、と説く主人公を描きながら、映画的にはこれでもかといわんばかりに豪華な舞台装置や衣装が登場してくる。とくに最後の法王庁の場面はそうである。映画的には最大の見せ場でありながら、フランチェスコにその富を嘆き悲しませるというシーンに、居心地の悪さを感じてしまった。そのうえ、法王がフランチェスコをほめたたえることで彼を政治的に利用したことが、かえって、法王に自分を認めさせることに成功したフランチェスコの政治性のようなものも感じられて、どうにも後味が悪かった。
 ただ、映画の中盤までは、フランチェスコの精神をそれなりにうまく描いていたのではないかと思う。
 フランチェスコは、自分の信念を貫くためには親子の縁を切らざるをえず、広場で自分の服をすべて脱ぎ捨てて父に返し、裸で街を去っていく。また雪のなか、壊れた教会を再建しようと、仲間とともにひとつずつ石を積み立てていく。グラハム・フォークナーの迷いのない眼差しが、フランチェスコの信念のゆるぎなさと清廉な魂をみごとに表現していたように思う。またイタリアの美しい風景と、フランチェスコの口から語られる美しい言葉が重なり合って、静かな感動をよびさますものだといえる。
by kiryn (2001/12/6)

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陽だまりのグラウンド

Hardball
2001年 米
監督: ブライアン・ロビンス
出演: キアヌ・リーブス
ダイアン・レイン
ジョン・ホークス


 ギャンブルでえらい借金を背負ってしまったコナー(キアヌ・リーブス)は、ひょんなことから少年野球の監督をすることになる。最初はいやいや引き受けたのだけど、貧しい地区に住む黒人の男の子たちとのチームワークができてくるようになり、コナーは監督としてこどもたちと心を通わせていく。
 かんじとしては、少年マンガのチームワーク系スポーツ物に近いかも。必殺技を繰り出す宮本武蔵系スポーツ物ではないのはたしかです。
 エンディングが悲しい終わり方をするから胸のつまる思いはするのだけれど、非常にストレートなつくりの映画で好感がもてる。凝った映像とか複雑なストーリーばかりが映画じゃないさ。
by kiryn (2002/4/7)

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バーディ

Birdy
1984 年 米
監督: アラン・パーカー
出演: マシュー・モディン
ニコラス・ケイジ


 鳥が好きで、とても繊細な心をもったバーディと、彼の繊細さを理解したうえで付き合っているアルが主人公。でも時代はベトナム戦争で、二人とも戦争に行く。バーディの繊細さは戦場の過酷さに耐え切れず、彼は心のバランスを壊してしまう。アルがバーディに再開したのは、真っ白い病院のなかで自分を鳥だと思い込んで鳥になってしまったバーディの姿だった。
 十代のころにみたときは、バーディの繊細さが痛々しくて、すごく好きな映画だった。この映画は、一種の反戦映画といえるかもしれない。でも今思えば、アメリカの立場からみたベトナム戦争をあまりにもナイーブに描きすぎている。
 戦争を描く、戦争を扱う、というのは、ある国に属する人間がどのような立場で(国民か、移民か、亡命者か、強制労働者か)、どのように「あの戦争」を解釈しているのかが、あからさまに露呈してしまう。バーディにしろ、アルにしろ、戦争によって人生を狂わされてしまう被害者であるかのような描き方がなされていたように思う。それはたしかに悲劇だ。けれどもそこにはベトナムの人々の姿は現れない。そこにあったであろう悲惨さを知ることが、あらかじめ排除されている。今なら、こんな映画は、良心的であろうとするならば、撮れないだろうな、と思う。
by kiryn (2001/10/15)

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炎のランナー

Chariot of Fire
1981 年 英
監督: ヒュー・ハドソン
出演: ベン・クロス
イアン・チャールソン


 「炎のランナー」、このタイトルだけは許せん。原題はChariot of Fireだよ? 「炎のランナー」じゃ、スタローン系の戦争オタクモノを想像するではないですか。ぜんぜんちがうのにっ!
 1924年のパリ・オリンピックに陸上競技選手として出場する二人の英国人を扱った映画。
 音楽はいいし、ファッションもいいし、清潔なスポ根モノでスタローン的なものはぜんぜん関係ないんだけど、登場人物の描き方は、実は日本の文化圏にはなじみのないものを扱っている。
 ハロルド・エイブラハム(ベン・クロス)は、その名が示すとおりユダヤ系(といっても説明されないとピンとこないけどね)。彼が大学の校庭を学友たちに囲まれて走るシーンで、その騒ぎを上から見ていた学長だかだれだかが、エイブラハムという名前を聞いたとたんバカにしたように、「ユダヤ人か」と呟く。ハロルドが走るのは、人種的偏見を実力で跳ね返すことであり、差別する者を見返すことだった。(もちろん、こういった偏見・差別が日本になじみがないという意味ではなく、ユダヤ人差別はなじみがないということです。)
 もう一人の主人公エリック・リデル(イアン・ホルム)は、スコットランドの宣教師一家の息子で敬虔なクリスチャンである。彼は、人より速く走ることができる能力を与えられたことに神の愛を感じ、神を愛するがゆえに喜んで走る。だから、オリンピックの当日が安息日にあたっていると分かったら、それは神の御心にかなわないことだからと、あっさり出場を取りやめてしまう。
 周りの英国人が逆にびっくりして、英国のために走ってくれとエリックを説得するのだけれど、彼は聞き入れない。
 1920年代という、ナショナリズムが今ほど問題視されもせず、肯定的に捉えられていたような時代に、「英国のために」走ろうとはしなかったエリックの存在はとても興味深い。おそらく、エイブラハムの自我のありかたは、そういったナショナルなものに荷担しやすい危うさを秘めている。ただし、映画そのものは、オリンピックで英国優勝という終わり方だから、この映画自体はナショナルな語りに収斂している。
 ハロルドにしろ、エリックにしろ、人間のありかたを描くという点でとてもおもしろい映画だった。
by kiryn (2001/12/28)

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ピアノ・レッスン

The Piano
1993 年 豪
監督: ジェーン・カンピオン
出演: ホリー・ハンター
ハーヴェイ・カイテル
サム・ニール


 最初見たときはすごくよかった。で、もう一度見たくて、見てみた。一度目ほどの感動はなく、状況設定はたしかに特徴的だけど、話としては、んー三角関係モノのメロドラマかなあ。そういいきってしまうのも酷だろうか。
 でも、海辺で弾いているピアノのシーンとか、ナイマンの音楽とか、印象的なのはいっぱいあった。口のきけないアダ(ハリー・ハンター)がピアノを介してベインズ(ハーベイ・カイテル)と関係を深めていくのを、夫のステュアート(サム・ニール)が嫉妬して、最後には妻の指を斧で切り落としてしまうシーンもすごい。どしゃぶりの雨のなかをふらふらとアダが倒れこんでいくとき、スカートがふわっとひろがって、ゆっくりしぼんでしまう。とても鮮烈なシーンだ。
 ジェーン・カンピオンの昔の映画って、とにかく長くて空恐ろしいくらい退屈だった。絶対途中で寝てた。この映画、最後までおもしろく見れただけでもすごいかもしれん。
by kiryn (2001/12/28)

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バロン

The Adventures of Baron Munchausen
1989 年 英
監督: テリー・ギリアム
出演: ジョン・ネヴィル
エリック・アイドル
オリヴァー・リード


 ティリー・ギリアムのなかでは「バロン」が一番好き!
 「ほらふき男爵」の荒唐無稽ぶりをそのまんま映像化。「ちょっと待てー!」と思わずつっこみたくなるオカシサが満載です。
 ユマ・サーマンの「ヴィーナスの誕生」のシーン、美しいー。もうそのまんまボッティチェリです。
 とにかく、莫大な制作費をかけて、ギリアムが偏執的なまでのこだわりを全開させた作品。楽しくマニアックな一作ですね。
by kiryn (2001/10/8)

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バウンド

Bound
1996 年 米
監督: ラリー&アンディ・ウォシャウスキー
出演: ジェニファー・ティリー
ジーナ・ガーション
ジョー・パントリアーノ


 視線を交わした二人がいきなり恋に落ちて、初っ端からヒートアップ! あまりのカッコよさにクラクラします。
 男たちがマフィア社会の掟に縛られて、ある意味、旧態依然とした行動パターンをとっているのに対して、コーキー&ヴァイオレットのスマートさはホントにクール!
 しかもブレインであるコーキー(カッコいい姉貴&マニッシュ)が、トラブったヴァイオレット(ベティさんか?と思わせるほどのお色気&フェミニン)を救いに行くのかと思いきや、コーキーにはほとんど実戦の活躍なし。「守られる」タイプっぽかったヴァイオレットが、自力でがんがん窮地を脱していくのも、監督のひねりなんでしょうね。
 ジェンダー・パターンを気持ちよく肩透かしさせていて、うまいなあと感心しました。
by kiryn (2001/10/9)

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