歌っているのはだれ?

КОТО ТАТО ЛЕЬА
1980年 ユーゴスラヴィア
監督:スロボダン・シヤン 
出演:パブレ・ブイシッチ/ドラガソ・ニコリッチ/アレクサンダル・ベルチェク
 1941年、セルビアの田舎にバスに乗ろうとする人々が集まってくる。彼らはみな首都ベオグラードに行きたいのだ。負けず嫌いで体力自慢のお金落ち、オーディションを受けに行く歌手、退役軍人のじいさん、まぬけなハンター、肺を病んだ病人、二人組みのジプシー、結婚したばかりのこどものような夫婦が、バスに乗り合わせる。オンボロバスの運転手は父子で、父は欲張りで抜け目のないやつで、猪突猛進型の息子は運転手。
 みんなベオグラードに早く行きたいのに、バスが次から次へとアクシデントに見舞われて、時間が延々伸びていく。旅は道連れといわんばかりに、道中の混乱ぶりは大層なもので、なかなか笑わせてくれる。それでも、田舎の道路を石炭の煙をだしながら走るバスを見て、のんびりしているよなあと思ってしまう。
 途中途中で始まるジプシーの歌で、「ビヨヨヨ〜ン」となる楽器が使われているのだけれど、あれはなんていう楽器なんだろう?
 実はこの映画の日時設定は、ドイツ軍がベオグラードを侵攻する前日ということになっているのだ。後半に進むにつれて、軍人たちが現れてバスの乗員をふりまわしていくなど、徐々に不穏な空気が漂い始める。最後の唐突な終わりまで見て、やはり、同じユーゴスラヴィアの映画監督エミール・クストリッツアの「アンダーグラウンド」を思い出した(今はユーゴだっけ?)。最後が似ている、というのではなく、悲惨な現状にもかかわらず、笑いを提供する図太い精神が、ユーゴスラヴィアならではなのかとあらためて思ったのだ。
 映画の発表は1980年。チトー政権が終わった年だけど、その後の民族紛争による最悪の状況を思えば、まだこの時期はそれほど深刻な時代ではなかったというしかない。となると、最後のシーンは、その後のユーゴスラヴィアを暗示したということになるのだろうか。


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