川上弘美の『なんとなくな日々』を読み始める。けれども、いきなり川上ワールドが展開されていたので、エッセイを3、4本よんで、えいとばかりに本を閉じた。これは一気に読んではもったいないと判断したからだ。きゅうううう、という大きな鳴き声を冷蔵庫がたてているのを聞いて、「冷えつづけることもせんないものですよう」とでもいっているのか、などと書かれてあったら、もうもったいなくて次々読み飛ばせない。
家電に名前をつけたり話し掛けたりするのは、けっこうみんなやっているのではないかと思う(コンピュータとかね)。あたしの場合は、洗濯機である。なんせ家が2DKとか3LDKという概念でははかれないくらい古いので、洗濯機を設置する場所などない。それで仕方なく、裏に放り出してある。直射日光を浴び、雨風にさらされ、夜露にぬれ、カバーをかぶせたりもしたが、あっという間にボロボロになって下の方に残骸をとどめているような、そんな過酷な環境に置かれている。
よく考えれば、別に名前はつけていないのだが、ゴンゴロゴンゴロ回転している姿をみると、いとおしさを感じてしまう。もうすぐ変な音をさせて、永眠してしまうのではないかと不安になりながらも、瑕だらけの外装をなでながら、洗濯槽がゴンゴロ回るのをじっとみている。ふたをしないでいると、脱水できないんだけどぉってかんじでブーブー鳴る。たまには洗濯槽専用の洗剤できれいにしてやり、糸くず取りのネットが破れては糸で応急手当をしてやっている。
蚊が飛んでくるのは考えものだけど、洗濯機を回しながら、鳥が木の枝に止まっていたり、トカゲがウロチョロしているのをじっと見ているのは楽しい。陽にあたると、トカゲはぴかぴか光るから、見飽きない。歩き方もユーモラスだし、おんなじところをぐるぐる行ったり来たりしていて、遊んでいるのかな、と思わせる。とくにしっぽは七色に光っていて、そんなに目立って大丈夫かいと心配になってくるぐらい。外に洗濯機を置いてあるからこそ、楽しめる時間ともいえるか。
(25.sep.di.2001)