熱帯植物園と杉本博司の写真

 テイ・トウワのSweet Robots against the Machineの二枚目は、ジャングルの音だけを60分間流している。60分間しっかり聞きつづけるわけではないが、フェイクっぽいかんじであたしは好きだ。テイ・トウワの意図は知らないが、この好意的評価は、あたしが植物園、とくに熱帯植物コーナーが大好きだからにちがいない。
 所狭しと緑が繁茂し、暑いわけではないけれど空気が湿り気を帯びていて、録音された鳥のさえずりが聞こえてくる、あの熱帯植物園特有の空間。本物のジャングルとちがって、湿気も調節されているし、もちろん虫なんていない、まったくの人工的なミニチュアの世界である。植物園に入って、熱帯植物コーナーがなかったら金返せ!っていいたくなる。人工的につくられているんだけど、完全にかぎりなく近づいていく小宇宙と感じられるのが大事なのです。
 実はこの感覚に一番ぴったりするのが、杉本博司の写真だと思う。もうずいぶん前に、雑誌で彼の撮った写真を見て、一瞬で虜になってしまった。美術書や写真集をたくさん置いてある書店にいって彼の写真集を探したけど、手に入らず、写真集LANDSCAPEを注文して取り寄せた。
 そこには、劇場と海と動物の写真が収められていた。
 人のいない劇場で舞台は光り輝き、ミニチュアの動物は時を止めてガラスの目でまなざし、波をたてない海は静かに、ひたすら静かに、そこにあった。どの写真にも、時を止めた、硬質で無音の世界がひろがっていた。猿たちが木々の間を走り回っているかのような写真も、リアルでありながらどこか無機質で、生物特有の雰囲気を漂わせてない。あたしが愛してやまないあの熱帯植物園的世界とどこか通底している。というよりはむしろ、あたしにとっては、これが理想の人工的小宇宙なのではないかという気がする。
 はじめて見た杉本の写真は、この海の写真だった。モノトーンで海と空がちょうど写真のまんなかで分かれている。波と波が細かな襞をつくりながらも、すべての動きは静止している。写真の題材としてはありふれた海をこんな風に切り取る写真家の感性に驚いた。海が標本にされてしまったかのようだった。
(18.dez.01)