Le signe du Lion
1959年、仏
監督:エリック・ロメール
出演:ジェス・ハーン
ヴァン・ドード
ジャン=リュック・ゴダール
自称音楽家のピエールは、40歳間近になっても音楽で身をたてることもできず、自堕落な日々をおくる男。映画は彼に伯母の莫大な遺産が転がり込んできたことを知らせる電報から始まる。ピエールは自分の星座である獅子座の強運に感謝し、友人を呼んで一晩中どんちゃん騒ぎを繰り広げる。ところが電報は誤報、アパートメントも追い出されていたピエールは一夜にして住むところもない文無しになってしまう。おりしもパリはバカンスの真っ最中。金持の友人たちはみなバカンスにでかけて、助けを求める相手が誰もいない――。
この映画、ストーリーは特別すごいものとは思わないけど、文無しになってからのピエールの落ちぶれようを執拗に撮っていく様がすごい。執拗、としかいいようがないような気がする。彼は友人の助けを求めてパリ中を歩き回る。服は汚れ靴底は外れ、空腹のあまり万引きしては殴られて散々な目にあう。多少自堕落であってもそれまで普通の都会人であったピエールが、あっという間に都市の底辺へ転落していく。住むところがなく、ホテルにも泊まれず、電車やバスにものれず、市場やお店で売られる商品も彼の手にはとどかず、友人の家を尋ねても門前払いをくらわされる。
むしろ真の主人公はパリという大都会であって、ピエールが仲間とどんちゃん騒ぎをしていた頃にみせていた快楽と喧騒の街たる相貌と、彼が乞食へと転落していく過程でみせる「無関心」という都市の冷酷さの相貌の対照が、とにかく強烈である。最後のどんでん返しも観るものを安堵させるような類のものではなく、その意味でも、この映画の対象に対する突き放し方はかなりシニックだ。
ふと思ったけど、カラックスの『ポーラX』の主人公ピエールがパリの街を彷徨する様子は、この映画が元ネタなんだろうか。
(28.jan.2004)
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si