映画バトン

 MAIさんよりバトンが回ってきたので、試みにやってみます。タルコフスキーの「鏡」とパラジャーノフの「ざくろの色」はMAIさんがすでに挙げられていたので、なかなか外しがたい作品だけれど、今回は外しておいて、、、
1.心に残り続ける映画
、、、これ難しいな、挙げだすとキリがない。ムリヤリ挙げるとすると、
レオス・カラックス「ポーラX」
「汚れた血」も捨てがたいけれど、「ポーラX」のほうが衝撃度が高かったので。画面から漂う不穏な空気は、今思い出しても、胸苦しくなる気がする。
アンドレイ・タルコフスキー「惑星ソラリス」
〈ハリー〉のあの神秘的な形象は忘れがたい。あれは幽玄的な存在だった。レムの原作やソダーバーグのリメイク版との対比ができるのも楽しい。(そういえば、レムのポーランド語版の原作が邦訳されたらしい。ハヤカワ文庫はロシア語版の翻訳で、レムにとっては不本意な削除があると聞いた。その削除部分というのが、学者たちがソラリス学について延々論じる部分なんだそうだけど、、、映画的にはマニアックすぎてウケなさそうな部分だわー)
2.愛する人と見たい映画
リサンドロ・ドゥケ・ナランホ「ローマの奇跡」
ガルシア=マルケス原作の映画化作品。7歳の娘を突然亡くした父が、数年後に墓をあけると、娘が眠ったまま生きていた。父は娘を連れて、ローマ法王に奇跡の認定を求めるためバチカンに赴く、という不思議な物語。奇跡認定の手続きに翻弄される父親の、眠ったままの娘への愛情がとても切ない。
ペドロ・アルモドバル「オール・アバウト・マイ・マザー」
これも、突然息子を亡くした母が主人公。あまりに辛い現実であっても、人と人との関係は新しく作り出されるし、失くしたはずの絆もまた、ゆるやかに、前よりも豊かに結びなおされていくこともあるのだ、と希望を感じさせてくれる。
3、震えたホラー映画
ホラーは見ないです。
代わりにわたしの「お尋ね映画」を書いときます。
ポーランドかどこか東欧の映画で、数学者である父親と息子が登場する。ある冬の日、父は池に張られた氷の硬度を算出し、絶対に割れることはないと太鼓判を押す。父を信頼している息子はその凍った池にスケートをしにいくのだけれど、氷が割れて息子は死んでしまう。父は息子が死んだという「ありえない現実」に直面して、呆然と立ちすくむ、、、という出だしだった。
・・・不条理さと救済がテーマだったのか、続きがとっても気になるのだけれど、あいにく映画のタイトルも監督名も分かりません。誰がご存知であれば教えてください。
4、バトン回す5人
では、nozakiさん、遊民さん、梨子さん、岡田さん、よしふみさんのお名前を挙げておきます。強制じゃないので、メンドくさかったらスルーしてくださいねー。

映画バトン」への21件のフィードバック

  1. tadafumi

    こんにちは。
    お久しぶりです。
    ポーランドの「お尋ね映画」、クシシュトフ・キェシロフスキの「デカローグ」の第1話だった思います。あの話は、父親が「ありえない現実」に直面したシーンで終わりなんですよね。
    これからもときどき遊びに来ます。
    それでは。

  2. kiryn

    すごい!お尋ね広告を出したら一発で分かってしまった。tadafumiさん、ありがとう。あの話はあそこで終わりだったのね。ずっと気になっていた話で、自分であの続きを想像したりしていたのですが、あそこで終わっているのだったら、どう理解するかは鑑賞者に投げかけられているものだったのかもしれません。
    ちょっと調べてみると、「あなたは私の他になにものをも神としてはならない」という十戒がテーゼになっていた話だったのですね。ああ、なるほど。このテーゼに対してあの話だったのなら、巧い構成だったように思います。短編だなんて、ちょっともったいないくらいです。
    キェシロフスキの映画、「トリコロール」を観たかどうかぐらいだったのですが、ちゃんと観たくなってきました。「ふたりのベロニカ」も観たいと思っていた映画だったことを思い出しました。
    ほんとにどうもありがとう。監督名とタイトルが分かってすごくうれしいです。

  3. nozaki

    kirynさん、こんにちは。
    楽しい企画。バトン落とさないように、ちゃっちゃと書きます。
    私の場合、外国暮らしになってからすっかり生活も映画を環境も変わってしまって、日本にいたときどんなものを観たか、好きだったかを思い出すのが、難しくなってます。なので、ドイツで観た映画が中心です。
    1.心に残り続ける映画
    タルコフスキーの『惑星ソラリス』は、毎年夏になると1回くらいオリジナルの上映があるので、よく行きますが、もう名前が挙がってしまったので、
    青山真治『ユリイカ』
    バスジャック事件で心の傷を負った元運転手と兄妹3人の話。
    満員の中で3時間半。いつまで続くのかわからないような長回しのシーンに時が過ぎるのも忘れてしまいました。
    ベルリンで映画を見れることの幸福をしみじみ感じた一本。
    それから
    エルンスト・ルビッチ『ニノチカ』
    つい先日生誕100年を迎えたグレタ・ガルボにちなんで。
    2.愛する人と見たい映画
    ビリー・ワイルダー『A Foreign Affair』
    なぜか日本で公開されていないみたいですが。
    戦後のベルリンが舞台で、ほんとにロケしてます。
    ヴォルフガング・ベッカー『Das Leben ist eine Baustelle』
    「人生は工事現場」。『グッバイ・レーニン』の監督の作品。
    90年代のベルリンが舞台になっているラブ・コメディーです。
    3.震えたホラー映画
    ホラー映画は見ないです。怖いもの見たさに映画館まで足を運ぶことはないので、たいていはついテレビをつけたら、こわいものをやっていたということのほうが多いです。『ロボコップ1』、『ヒドゥン』、あと『シークレットサービス』のジョン・マルコヴィッチは怖かったー。
    子供のときはなに見ても怖かったですね。
    ホラーではないですが、映画館で観て、思いがけず怖かったのは、
    ミヒャエル・ハネケ『ピアニスト』
    音大のピアノ科の教授をしている主人公を演じているイザベル・ユペールがマジになっていてこわかったー。
    怖いのを知っていて、それでもわざわざ映画館に見に行ったのは、
    ブニュエル『アンダルシアの犬』
    やっぱり目を背けてしまいました。

  4. kiryn

    nozakiさん、こんにちは。
    いやはや、お付き合いどうもありがとうございます。たしかに、思い浮かんだ映画をさくさく書いてみるのが、この手の企画のやり方ですね。
    たしかにわたしも、だいぶ前に見た映画、とくにkiryns cinemathekで取り上げる以前の映画は、忘れているものも多いです。ビリー・ワイルダーとかブニュエルとかルビッチとか、そういや昔見たなあと思い出したりしました。『フォーリン・アフェアー』も『ニノチカ』も見てなくて残念ですが。
    ビリー・ワイルダーなら、定番ですけど『アパートの鍵貸します』とか『サブリナ』とか『お熱いのがお好き』とか、ワクワクして見た覚えがあります。サブリナのドレスはきれいだったし、何かとマヌケなジャック・レモンが印象的でした。『アンダルシアの犬』は、、、やっぱり怖いというより生理的にいやかも。最初の衝撃シーンしか記憶にないし。
    『惑星ソラリス』、ドイツで毎年上映っていいですね。わたしも、あの独特の静かな空間に久しぶりに映画館で浸ってみたいです。どっかで上映企画やってくれないかなー。
    nozakiさんの挙げられている映画は、さりげなく、ドイツやベルリンに関係してるものが多い気がしますねー。

  5. kiryn

    お仕事ごくろうさまでーす。
    わたしの数少ない映画友ということで名前をあげさせてもらいました。よしふみさんとこ、バトン大量に回ってきてそうだから、テキトーに流してくれてもいいですのよん。

  6. 岡田

    kirynさんお久しぶりです、みなさんこんにちは。
    こういうのって考え出すときりがないから、思いつきでささっと書いてみます。
    1.心に残り続ける映画
    ポール・トーマス・アンダーソン「マグノリア」
    映画のすべてが肌に隙間なくぴたっとはりつく感じで、これからも不動のお気に入り作品になると思われます。
    パトリス・ルコント「歓楽通り」
    彼がつくるのは結局のところ、大人のおとぎ話なんだと思います。大人って言っても、大人になれなかった子どもな大人の。あるところから眺めたらかなり閉塞的に見える場所からでさえも、ルコントの描く大人な男と女さえいれば、そこが魅惑的で
    限りない世界に思えてしまうのは、誰もが抱えている原風景を呼び覚まされるからではないでしょうか。
    2.愛する人と見たい映画
    ミシェル・ゴンドリー「エターナルサンシャイン」
    なんかこう、はっきりとした喜劇でも悲劇でもなくて、よかったのかわるかったのかもやもやしてるところがもってこいなんじゃないかと思います。あれだけある意味化学的に頭の中を見させられて、それでも恋愛が不確定なものだよって思わせられるのは、残酷でもあり、でもでもやっぱり楽しい希望も生まれるんだと思います。
    3、震えたホラー映画
    ホラーはやっぱり、日本映画のが恐いイメージがあります。でもそれは怪談のイメージで、ホラーといったらやっぱり「13日の金曜日」なんだと思います。
    子どものころテレビで観たりして、13日の金曜日にはほんとにジェイソンが家に来て家族全員が殺されてしまうとおびえていました。とにかくおばあちゃんちに逃げようと、13日の金曜日は泣きながらおばあちゃん家に行きたいと懇願していました。「ジェイソン、ニューヨークへ行く」とか副題がついた映画がちょうど僕が幼稚園上がる前くらいに公開されて、現代のニューヨークの地下鉄の電車の中を歩くジェイソンをCMで観て、ほんとにいると思っちゃってたんでしょうね。夜になると毎日そんなイメージにおびえていましたよ。でも実際に映画を観ちゃったら、そのとき恐いだけでたいしたことなかったんですけどね。

  7. かわうそくん

    kirynちゃんの見た映画は「デカローグ」の第1話だったのですかー。一発で答えが返ってくるとは、このサイトはすごいにゃ。「デカローグ」は長いのでどうにも観るのに躊躇してしまってます。
    「トリコロール」と「ふたりのベロニカ」はとても好印象の映画です。個人的には赤>白>青ですねー。青、もうちょっと頑張って欲しかったなあ、、、

  8. kiryn

    かわうそくんさん
    (だれかと思いました。吉田戦車のキャラが来たのかと思いました。)
    >一発で答えが返ってくるとは、このサイトはすごいにゃ。
    わたしもすごいと思いました。Googleの検索機能より確実かつ迅速です。スゴイ人たちが遊びに来てくれているのだなーと感謝感激です。わたしの頭のなかはジャンク情報のランダム集積地帯なんですけど、神経シナプスがどっかとどっかの記憶をくっつけてくれたみたいです。
    というわけで、今度はキェシロフスキの映画をみるぞー。ちょうど東欧・ロシア系の映画みたいと思っていたところだし。
    「二人のベロニカ」は友人がすごくよかったと言っていたので気になっていたのですが、なかなか見当たらないんですよねー、、、。ストーリーを聞く限りは、わたしの好きなパヴィチの『風の裏側』を思い出したりするので、とても楽しみなんですけど。なんか、東欧独特のセンスがありそうなんですよね。

  9. kiryn

    岡田さん、おひさしぶりです。サイトが今ちょっとお休み中だったんですよね。企画に乗っていただいてありがとう。ますます、この日付のブログが贅沢な内容になってきましたよ!
    『マグノリア』は岡田さんに以前薦めてもらいましたよねー。あれ結構長いから、今度今度でつい先送りになっています、、、。
    ルコント、いいですね! つい最近、王家衛の「若き仕立て屋の恋」(原題:The Hand。『愛の神、エロス』のうちの一本)を見たけど、ルコントへのオマージュがバシバシ感じられました。
    (とくにハッピーエンド系)恋愛映画にイマイチ乗れないわたしも、「エターナルサンシャイン」はよかったですね。ものすごーくドタバタな展開なのに、あれ?なんでこんなに巧いの?とちょっと面食らうような、、、冬の海に行きたくなります。
    怪談もホラーも区別の必要ないくらい、わたしは苦手なんですけど、、、ホラーが好きになる人と苦手な人はぱっきり分かれますよね。
    >とにかくおばあちゃんちに逃げようと、13日の金曜日は泣きながらおばあちゃん家に行きたいと
    あの××××を素手で殺すおばあちゃんですね! なんか岡田さんの苦手なものは全部おばあちゃんが退治してくれるみたいですねー。

  10. MAI

    おお〜!
    私の回したバトンがここでしっかり
    受け継がれているのをみるのはなんだかうれしいものです。
    デカローグ、私もはまりました!
    第一話が強烈な印象で(「あなたは私のほかに何者をも神としてはならない」の使い方が上手くて)、
    そのあとも全部みちゃいました。
    でもやっぱり第一話が一番インパクト強かったですね〜。

  11. kiryn

    MAIさん、おはようございます。
    バトン、みなさんのご好意で、楽しませてもらいました。
    「デカローグ」、わたしは第二話以降は見ていないか、見てても覚えていないようです。第一話だけが記憶に残っていたみたいです。あの話、あそこで終わっていたとは思ってもみませんでした。第二話以降も、機会があれば見てみたいですね。

  12. 木谷梨子

    kirynちゃん、こちらの梨子さんって私のことでいいですか? 別人だったらどーすんだろう(笑)。既にバトンに答えてしまいました、ぎゃはー。
    ★1.心に残り続ける映画
    ・ストローブ=ユイレ『アメリカ(階級関係)』
    カフカ未完の長編『失踪者』(旧題「アメリカ」)の映画化。しっとりモノクロ。映画の最後の、希望に満ちたうつくしい旅立ちに、目を瞠りました。こういう結末が観たかったんだと思わせられた作品なので、そういうのはずっと忘れないものじゃないかと思って。
    ・カール・TH・ドライヤー監督の『裁かるゝジャンヌ』
    めずらしく見た無声物で、とても古いジャンヌ・ダルクの映画。もとの題の「ゝ」がいい感じ(dvdでは「る」に直されている…)。
    ★2.愛する人と見たい映画
    ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『愛は死より冷酷』『自由の代償』
    『愛は死より〜』はギャング物の古典的傑作。『自由の〜』は宝くじに当たった男が周囲に利用され尽くしぼろくたになっていく話。どちらも半端なくやられる。
    …ほんとですよ?<愛する人と見たい
    ★3.震えたホラー映画
    オーメン。サスペリア。
    blogの題材としても頂いていきました(少し違う回答にした箇所もあります)。では、ありがっとう。
    http://kotaniriko.blogtribe

  13. kiryn

    >こちらの梨子さんって私のことでいいですか?
    もちろんですとも!
    ご参加ありがとうございますー、もうめっちゃウレシイ。
    しかも、わたしの見たことない映画ばかり。ううーん、とっても贅沢な映画案内になっています。
    ファスビンダーの映画、観たいと思いつつ、一本も見てないなあ。しかし「周囲に利用され尽くしぼろくたになっていく話」を愛する人とみたいだなんて、なんとなくサドちっくな雰囲気が漂っていて、ステキですおネエさま、、、。
    ストローブとユイレは「アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記」しか見たことないけど、あれもモノクロで、ある意味ものすごく贅沢な映画だった。カフカが原作というのもおもしろそー。
    >blogの題材としても頂いていきました
    では今から遊びにゆきますわ。

  14. 東東(遊民)

    kirynさん、みなさん、こんばんわ。
    すいません、大きく遅れました。上海行ってました。
    数日以内に、バトンを受け取らせていただきます。ん?アンカー?緊張するなぁ・・・。

  15. kiryn

    あ、遊民さんだー。上海からお帰りなさい。
    なんとなんと、バトンを(勝手に)まわした方全員がしっかり受け止めてくれました。なんか感動するなあ。スルーしてくれてもぜんぜんオッケーだったのに。
    アンカー遊民さんの文章、楽しみにしています。

  16. 遊民(東東)

    一気に書いてしまいました。
    かなり長いです。
    1週間ほど中国語を聞きまくったので、少し冗長な日本語になってます(苦笑)。
    ★1.心に残り続ける映画
    イエ・イン『追憶の上海』(1998年、中国、原題:紅色戀人)
    出演:レスリー・チャン、メイ・ティン、トッド・バブコック、タオ・ツァオルー
    国民党VS共産党の中国内戦期、国民政府側の発砲によって頭蓋骨を砕かれ熱の後遺症が激しい革命戦士を中心に、絶妙なバランスで人間関係を描ききった名作。彼を慕う女性、その女性を子供の時に救うために自身を国民党に売った父、革命戦士の担当医をし、その女性に惹かれた西洋人男性、革命戦士と女性との間に生まれた子供。置かれた立場と欲望がずれ続ける登場人物達の運命は、誰かが勝者になるハリウッドの単純明快なストーリーとは異なり、誰もが敗者であるといえるような展開となっている。痛みをもって繰り返し思い出してしまう作品。
    ★2.愛する人と見たい映画
    ウォン・カーウァイ『恋する惑星』(1994年、香港、原題:重慶森林)
    出演:ブリジット・リン、金城武、フェイ・ウォン、トニー・レオン
    大きく二つのショート・ストーリーで構成された「映像」。テーマは出会いと別れだが、出会いにも別れにも複数の形を描いているのがこの作品の大きな特徴。焦燥感溢れる関係(前編)と退廃的な感覚に満ちた後編それぞれが、切なさと同時に笑いが提供されていて、サービス満点。後編の最後にはロマンチックな結末もあったりと、ウォン・カーウァイの多才を十二分に堪能できる。また、前編に実はフェイ・ウォンが数秒出てくるなど、マニアックな楽しみ方もできる。前編のヒロインであるブリジット・リンは、20世紀最高の東洋美女と呼ばれることの多い台湾人女優だが、彼女に終始サングラスを掛けて登場させたこと自体も、ウォン・カーウァイならではの大胆な俳優の使い方で、笑ってしまう。台詞の少ない作品として、恋愛形式のオムニバス、ポップミュージックの宝庫とも言われることが多いが、もちろん、そのような楽しみ方も約束してくれている。
    ★3.震えたホラー映画
    中田秀夫『リング』(1998年、日本)
    出演:松嶋菜々子、真田広之、中谷美紀、沼田曜一、雅子
    数十年という時間を経て現代の都市社会に出現する「呪い」を描いた先駆的な作品。以後公開された『呪怨』『予言』『着信アリ』などの原型となった、「呪いの原因探り」という物語展開は、数十年前の伝説という虚構を上記諸作品の中でも群を抜いた丁寧さで設定されている。千里眼の力を持つ山村志津子とその娘貞子の生涯は、明治期に千里眼の被験者として悲劇的な人生を送った御船千鶴子という実在の人物を、原作者の鈴木光司がヒントとして活用した点、またこのことを映画の外へと恐怖を延長させた点、これらが他の類似ホラーを相手にしない理由となっているようだ。実在した人物をヒントに歴史的にあり得るエピソードを超能力者である母と娘に塗り込み、ビデオが恐怖を再生産するというあり得ない話と融和させることで、「ありえねーーー」という感想を持ちきれない気持ち悪さが後に残る。

  17. kiryn

    遊民さん、こんばんはー。
    読み応え十分な映画評です。見事なアンカーぶり、感謝感激ですよ。
    王家衛ははずさないだろうと思っていましたが、遊民さんのベストは『恋する惑星』だったりしますか? 王の映画のうちでも初期にあたると考えていいのかな(たんにわたしがだいぶ前に見ただけとも・・・)、最近の彼の映画に比べるとすごくポップでハジけていたような印象がありますねー。
    思えば、王の映画には最初から土着性をほとんど感じなかったですね。中国人監督の映画のなかではやはり異色なのかしら? 
    『追憶の上海』、見たことないんですけど、中国現代史を知っておかないと意味がよく分からない、ってなるかもしれません。
    先日、田壮壮の『春の惑い』を見たんですけど、映画の文学的な完成度は非常に高くてすばらしかったのですが、背景になっている中国史を知っていれば、もっと複雑な読み方ができるんだろうなあと思ったんですね。
    『追憶の上海』もそういう映画のような気がします。
    あとホラー。みなさん、ホラーで書けといわれたら、書けちゃうんですね! 
    わたしも考えはしたけど、思いつかないので逃げちゃいましたよ。
    そうかー、『リング』ってJホラーのプロトタイプだったのね。
    >「ありえねーーー」という感想を持ちきれない気持ち悪さが後に残る
    うわ、ぜったいイヤ、ぜったい見ない。

  18. kiryn

    わたしがまわしたバトン、なんと5人のみなさん、全員が受け取ってくれました。しかも充実の内容でした。みんな律儀だ、、、お付き合い、ほんとにどうもありがとう!

  19. 遊民(東東)

    kirynさん、こんばんわー。
    >王家衛ははずさないだろうと思っていましたが、遊民さんのベストは『恋する惑星』だったりしますか?
    ベストは、そうですねぇー、ウォン・カーウァイ『恋する惑星』『花様年華』、あるいは、池田満寿夫の『窓からローマが見える』、トリュフォーの『暗くなるまでこの恋を』がひとまず頭に出てきました。
    ウォン・カーウァイといっても、『恋する惑星』と『花様年華』では大きく性格が違うように思います。ウォン・カーウァイは映画の中で音楽と映像という2ジャンルをできる限り平等に扱いますが、『花様年華』と『2046』では、クレジットに明記している通り、ラウ・イーチョンという香港の短編作家を明確にターゲットとして、文学までを導入しています。つまり、映像、音楽、文学を対等に扱うことによって映画を作るようになりました。映像重視の観客からみると、ウォン・カーウァイの醍醐味が減退しているように見えるでしょうし、ロマンティックな展開や耽美的な場面を期待する、「文学的」?な見方からすれば、ますますエロティックで嗅覚に訴える感触を見る人は持つんだろうと思っています。ただ一貫しているのは、どの作品も湿度が非常に高いことですね。ジメジメしてます(笑)。
    >思えば、王の映画には最初から土着性をほとんど感じなかったですね。中国人監督の映画のなかではやはり異色なのかしら? 
    土着性は『ブエノスアイレス』で変化を見せ、次作品『花様年華』で一転したように感じます。以前は無重力、無国籍、以後は20年代上海と60年代香港への回帰というところでしょうか。先に挙げたラウ・イーチョンという香港の作家もまた、ウォン・カーウァイと同じく上海から香港へ移住した人物です。
    野崎歓のようなミーハーな連中は「無国籍」「無所属」「ジャングル=森林」という側面ばかりをクローズアップしている嫌いがありますが(『欲望の翼』の青色ジャングルと『恋する惑星』のアパート・ジャングルが連中の好きな比喩)、ウォン・カーウァイの土着性はとても難しい問題です。ウォン・カーウァイが香港へ移住した幼少期、彼は父親から「上海人だということを忘れるな」と言われ、戸籍は上海に置いたまま香港で成長したそうです。パスポートも中国が発行したパスポートだといわれています。
    土着性の無さは、『花様年華』にも現れています。隣人となった男女は、それぞれの配偶者が実は互いに不倫関係にあることに気付きます。その後、不倫をされている側の、つまり主役の男女は短期間の出会いの中で、配偶者と同じことをすべきか悩みます。ハッピーエンドからほど遠い結末がありますが、一時的な出会いとすれ違い、これはラウ・イーチョンの短編『対倒』のモチーフを引いていますが、同時に、60年代香港を明確に舞台設定しており、映画の随所で20年代上海のアイドル周旋(チャウ・シュエン)の名歌「花様的年華」を流すなど、当時の香港人が幼い頃に聞いていたはずの20年代上海を回顧させる仕組みも用意しています。『2046』では『花様年華』で使われた曲がいくつか、再び流されています。
    『追憶の上海』は、それほど固有名詞が出てくるわけではないので、あまり現代史を知らなくてもいいかも知れません。ややプロパガンダっぽい面もあり、構図としては単純明快になっています。一点、印象的なのは、主役の男女の顛末。レスリー・チャン演じる革命戦士が頭部に難病を抱えており、普段は同じ共産党員として慕っている女性(メイ・ティン)を好きなのですが、銃弾の残った頭部が発熱すると、故人となった妻の名前を呼び続けます。レスリー・チャンとメイ・ティンの間には子供が生まれますが、レスリー・チャンが魘されている間に、妻の名を呼び、それを聞いたメイ・ティンが「はい、ここにいます」と言って結ばれたという経緯があります。
    またまた長くなってしまいましたが、kirynさん、『リング』まだ見てらっしゃいませんかー!? いやぁ、いいですよ、画像は暗め、作品全体がジメっとしていて。真田広之や松嶋菜々子たちも、ひたすら暗いです(笑)。貞子だけが真っ白に映えています(笑)

  20. kiryn

    こんばんはー。
    遊民さん、スペシャルな補足ありがとう。なんとも贅沢です。王家衛のサイトもすごい充実度ですが、あらためて、ほんとに読みが深いなあと感心しました。遊民さんをそこまで惹きつけて止まない王ワールドの深さは底なしですね。
    >土着性は『ブエノスアイレス』で変化を見せ、次作品『花様年華』で一転したように感じます。以前は無重力、無国籍、以後は20年代上海と60年代香港への回帰というところでしょうか。
    なるほど。彼の映画はランダムな見方しかしてないので、いいかげんなコメントですが、『ブエノスアイレス』以降の作品のほうが、多分わたしの好みには合うように思います。前半の映画は、ポップで感覚的で、かつヌーヴェル・ヴァーグ的な印象が強いように思っていて、あまり印象に残らなかったんですよね。後半にくるほど文学の要素が強くなる、というのはすごくイイですね。
    >20年代上海を回顧させる仕組み
    うーん、こういうのはもう分かる人でないと分からないですよね。
    そういえば、クストリッツァの『パパは、出張中』という旧ユーゴスラヴィア時代を扱った映画にも、1950sのサッカーの(多分とても有名な)試合のラジオ放送を背景に流す、という場面が出てきました。あとで解説か何かを読んで、特定の時代状況を想起させる仕掛けだったんだなあと思い至りましたが、共通の知識や記憶がないかぎり、見ている最中にはなかなか分からない仕掛けですよね。・・・きっと見逃しているものがたくさんあるんだろうなあ。
    ホラーをあえて見る心理とは・・・?ホラーが好きならともかく、別に好きでなくても、話題になれば、みなさん、ふつーに見るもんなんですか? ビデオ屋でも素通りする棚の一つなんだけどなあ・・・。 

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