addio, fratello crudele
1971年 伊
監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ
出演:シャーロット・ランプリング
オリヴァー・トビアス
ファビオ・テスティ
16世紀イギリスの劇作家ジョン・フォードの原作を、グリッフィが残酷で美しい物語へと映像化した作品。美しい妹の心を自分のものにすること以外、一切の望みも救いもいらぬと豪語する兄ジョヴァンニ、兄の眼差しを正面から受け止め、兄に心を捧げた妹アンナベラ、兄の愛人となったことを知らずに彼女を妻に娶った夫ソランツォ――この三者の関係が軸になって、物語は進む。
兄は、妹を奪った男に嫉妬し、夫は自分に心を開かない妻に苦しむ。妹は、兄への愛ゆえに夫を拒むが、次第に傲慢で美しい夫に惹かれていく――。
空気まで湿り気を帯びたような水の描写や雪景色など、映像がとにかく美しい。真っ白な息を吐いて野を駈けていくアンナベラ、なびかぬ妻の姿を見つけては後を追うソランツォ、窓枠にもたれながら雪の積もった大地を眺めるジョヴァンニ――陽が優しく大地を照らしていても、冬の朝のように凍りついた空気が張りつめている。いつ崩れるか分からない危うい関係は、妹の心の揺らぎを感じ取った兄のまなざしが狂気を帯びるにしたがって、いっそうその緊張を高めていく。
それぞれの胸のうちに秘められていた狂おしいほどのパトスは、三者の交わりのうちにその激しさを増し、最後は血と死の匂いに充満するおぞましくも嵐のような結末へと導かれていく。すべてが死の静寂に打ち沈む場面で、死体のまわりを徘徊する犬の姿は、不気味なまでに救いのない死を描写していた。
……あまり多くを語ることはない。ただその破滅的な美に耽溺したいがために、ときおり見なおしたくなる映画になりそうだ。
(05.jan.2007)
sa