去年マリエンバートで

L’anne’e dernie’re a’ Marienbad
1961 年 仏
監督: アラン・レネ
出演: デルフィーヌ・セイリグ
ジョルジュ・アルベルタッツィ
サッシャ・ピエトフ


ストーリーそのものはたいして複雑でもなくて、上流階級の美しい既婚女性に、男がアプローチをかけて、上流社会の倦怠の生活から出て行くことを促し、最後には女は男と一緒に行こうとするというもの。ここにいてはあなたは自分を見失うばかりだから、ぼくと一緒に行こう、というわけです。
 ところがこの映画はものすごく実験的である。
 舞台は古典的で豪華なホテルとフランス式庭園、そこに集う上流階級の人々、かれらは演劇を鑑賞し、ゲームに興じ、終わりのない歓談を楽しんでいる。着飾った人々は静止しており、カメラがかれらを正面に捉えるやいなや人々が会話をはじめる、といったようにカメラワークにもアクセントがある。
 フランス式の庭園には、植物も樹木もなく、石や砂利や大理石で囲まれた固い硬質の空間が演出されている。
 豪奢なホテルを歩き回りながら、男は同じ独白を繰り返す。呪文のように繰り返される独白は、上流の人々の集う閉じられた空間へと誘っていく。
 男は女に、去年マリエンバートでお会いしましたね、と声をかける。女の返事は、わたしはしらない、である。男は去年ふたりのあいだにあったことを語りつづける。女はつねに、わたしはしらない、と答えつづける。
 男の語る過去の記憶は、フランス式庭園のなかに凝固している。
 お人違いでしょう、おぼえておりません、という女のつれない返事が、男の過去をますます凝固させている。けれども、いつしか、その結界がほころびはじめ、過去と現在の境目が曖昧になっていく。
 女が何かを守るために嘘をついていたのか、男が嘘をついていたのかどうにでも解釈できるだろうけれど、さいごに女は男と一緒に、この閉じられた空間から出て行こうとする。
 あくびをかみ殺しながら見なくてはならないけど、映画の手法の点でもひじょうにおもしろい映画であるのはまちがいない。
by kiryn (2001/11/20)
ショートヘアに黒い膝丈のドレスを来たデルフィーヌ・セイリグが美しい。とくに、階段を上る姿や、手すりに手をおいてちょっと斜めに立つ姿など、見ていてうっとりしました。


ki