ひかりのまち

wonderland
1999 年 英
監督: マイケル・ウィンターボトム
出演: ジーナ・マッキー
シャーリー・ハンダーソン
モリー・パーカー


 気持ちのいい秋晴れだから外を歩こうと思っていたのに、映画館に入ってしまう。気がついたら日が暮れていた。
 というわけで、マイケル・ウィンターボトムの「ひかりのまち」(wonderland、1999年英)を観ました。これが観たい!と思って観た訳ではないので、いっさいの先入観なし。宣伝文句にはやたらと「普通」の文字が目に入ってきて(普通のひとびと、普通の家族、普通がスバラシーetc)、おもしろいのかなーと半信半疑だったのですが、よかったです。
 ネタばれにならない程度に話を紹介すると……。
 映画の舞台はロンドン、時代はまさに現代、子育てを終えた一組の夫婦とそのこどもたちのそれぞれの日常生活を描いている。一番上の姉は小学生になる男の子を育ているシングルマザー、こどもの父親との間はすっかり冷え切っている。カフェで働くまんなかの妹は恋人探しに忙しく、一番下の妹は出産間近で幸せそうだけど、父親になるパートナーが突然仕事をやめてしまう。この三人姉妹をいちおう物語の中心に、話が進む。(「いちおう」と書いたのは、この一家族そのものを主人公というのがより適切かもしれないから。)
 とにかく起こる事件といっても、ちょっとした交通事故やこどもの迷子くらいで、映画的な非日常性はまったくない。だから観ている途中で、この映画はこんな調子でどうやって終わるんだろう?と心配になったくらい。でも終盤は、そういったちょっとした事件を展開させながら、ひじょうにうまくまとめている。こういった日常性を描ききる、しかも観客を飽きさせずに、というのはなかなかの手腕だと思う。小津安二郎の映画を思い起こしましたね。
 夜のロンドンを人びとがそぞろ歩きをしている様子、道端に散らかるごみ、カフェや夜おそく走る二階建てバスの中の雰囲気、散らかったこども部屋、汚れた窓ガラス越しに見えるマンションの立ち並ぶ風景、人びとの顔に刻まれた皺、母親の疲れきった顔――「普通」というのは、つまり、「わたしもその感覚を知っている」ということ。ひかりにあふれた夜の街を主人公たちがひとりで彷い歩くシーンは、マイケル・ナイマンの静かな音楽とともに、この映画の見所の一つだと思う。
(Saturday, November 04, 2000)


hi