炎のランナー

Chariot of Fire
1981 年 英
監督: ヒュー・ハドソン
出演: ベン・クロス
イアン・チャールソン


 「炎のランナー」、このタイトルだけは許せん。原題はChariot of Fireだよ? 「炎のランナー」じゃ、スタローン系の戦争オタクモノを想像するではないですか。ぜんぜんちがうのにっ!
 1924年のパリ・オリンピックに陸上競技選手として出場する二人の英国人を扱った映画。
 音楽はいいし、ファッションもいいし、清潔なスポ根モノでスタローン的なものはぜんぜん関係ないんだけど、登場人物の描き方は、実は日本の文化圏にはなじみのないものを扱っている。
 ハロルド・エイブラハム(ベン・クロス)は、その名が示すとおりユダヤ系(といっても説明されないとピンとこないけどね)。彼が大学の校庭を学友たちに囲まれて走るシーンで、その騒ぎを上から見ていた学長だかだれだかが、エイブラハムという名前を聞いたとたんバカにしたように、「ユダヤ人か」と呟く。ハロルドが走るのは、人種的偏見を実力で跳ね返すことであり、差別する者を見返すことだった。(もちろん、こういった偏見・差別が日本になじみがないという意味ではなく、ユダヤ人差別はなじみがないということです。)
 もう一人の主人公エリック・リデル(イアン・ホルム)は、スコットランドの宣教師一家の息子で敬虔なクリスチャンである。彼は、人より速く走ることができる能力を与えられたことに神の愛を感じ、神を愛するがゆえに喜んで走る。だから、オリンピックの当日が安息日にあたっていると分かったら、それは神の御心にかなわないことだからと、あっさり出場を取りやめてしまう。
 周りの英国人が逆にびっくりして、英国のために走ってくれとエリックを説得するのだけれど、彼は聞き入れない。
 1920年代という、ナショナリズムが今ほど問題視されもせず、肯定的に捉えられていたような時代に、「英国のために」走ろうとはしなかったエリックの存在はとても興味深い。おそらく、エイブラハムの自我のありかたは、そういったナショナルなものに荷担しやすい危うさを秘めている。ただし、映画そのものは、オリンピックで英国優勝という終わり方だから、この映画自体はナショナルな語りに収斂している。
 ハロルドにしろ、エリックにしろ、人間のありかたを描くという点でとてもおもしろい映画だった。
by kiryn (2001/12/28)


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